中学の剣道部時代、私の好きだったF先輩は、尊敬する先輩です。
もう20年以上前のことですが、いまだ、やむことがありません。
剣道部に入って数か月。
まだ面を着けはじめたばかりのときのことです。
稽古のおわり、全員、正座します。先生と生徒が向き合う形です。
皆、激しい稽古の疲れで、肩で息しています。
ぜえはあ、男たちの吐息の音が聞こえています。
「・・・・・・面とれぇ!」
と、部長の号令下、皆いっせいに面を取り外します。
剣道の面というのは、紐で、後頭部のところで、かなりきつきつに縛りあげて装着するものなのですが、じつは結び方は簡単なので、すぐにほどけます。
ただ、慣れていないと、ほどくときに焦る。
紐が絡まったようです。「しまった」という時には、もう遅かった。
私を残して皆、とうに面を置いたようです。
じれったい気配が伝わってくる。
「カトウ! 遅いぞ!」
野次、いや、指摘が飛んできます。
しかしそんなこと言われると、よけい、焦ります。面をつけたまま、頭の後ろの手も、絡まってしまいそうでした。
皆を待たせる、じりじりとした時間。地獄のような時間。いや、地獄です。
再び他の先輩からも厳しいご指摘が飛んできました。
と、そのときです。
「いいから、いいから」と言う声と、誰かがぬっと私の背後に立つ気配。
あ、殴られるか。と思いましたが、そうではなかったのです。
「落ち着け、外してやるから」
F先輩の優しい声でした。たしか当時、F先輩は高校2年生だったので、そうとう上の先輩ということになります。
今思い出しても、じつにありがたい。
F先輩はいつも私のおどけた姿を無邪気におかしがってくれる人でした。
そんな人が、こんなに優しいことをしてくれるとは。
なんて男らしいんだ。こういう人にならなければ。
良き思い出に、ひとり、じーんとしております。ああ、涙が。
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